環境新聞「地球タイムス」連載
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この星に生けるものたち
アジア編 第4回
ヤンバルクイナ
沖縄本島北部には、多様な生物の宝庫といわれる亜熱帯の森林がひろがっている。最高峰の与那覇岳でも標高500メートルにみたないのだが、世界的にも貴重な動植物が多い。
この地方を地元の人々は、「やんばる」といっている。島の東側の道路を行くと、やんばるの山々が眼下にひろがって、敷きつめたブロッコリ―を上からみるように、樹冠がながめられる。うりずんといわれる季節などは、こんもりと盛りあがった新緑のかがやきに、思わず目を奪われてしまう。
やんばるの森を代表する生きものに、ヤンバルクイナがいる。発見されたのは、たった二十数年前。飛べない鳥はヤンバルクイナと名づけられ、大発見だと大騒ぎになった。
ただ地元の人々は、「ヤマドゥイ」とか「アガチ」と呼び親しんで、昔から存在を知っていた。畑仕事をしているときなど、よく見かけたという。
このヤンバルクイナが、いま、絶滅の危機に瀕している。
森のなかを縦横に走る林道が最大の理由だ。林道ができてから車が入れるようになった。コンクリートの道は、動物や植物の生息環境を破壊してしまう。
最近もゴールデンウィーク中に、森に遊びにきた行楽の車が、ヤンバルクイナをひき殺した。せめてスピードを落として走って欲しいと地元では訴えているのだが、効果はないらしい。
その車は遊びにくるだけでなく、飼っていたペットをついでに捨てにくる。ここ数年、やんばるの森で犬や猫がふえつづけている。腹をすかせた猫は、ヤンバルクイナを襲う。猫は相手が絶滅危惧種だから食べないでおこうなんて考えもしない。やんばるの各地で人間のモラルを問いかける運動をしているのだが、ペットを捨てにくる人間はあとをたたない。
九十年前にハブを退治するために連れてこられたマングースも、森に入りこんで森の生きものを食べているという。
五月二十六日に、琉球諸島が「世界自然遺産」の候補地に選ばれた。
やんばるの森には米軍の北部訓練場もある。とうぜんだが推薦の際に問題となるだろう。開発と米軍基地……。世界自然遺産に指定されるための課題は、あまりにも大きい。
この星に生けるものたち
アジア編第5回
フィリピンイーグル
二年近く前、フィリピン上空を昼間飛んだことがある。くっきりと晴れた日で、高度がさがっていたせいか、島々の山や海岸線、道路までもがよくみえていた。
飛行機からみえる風景が好きだが、いくつかのチャンスに恵まれないと堪能できない。以前、ヒマラヤ山脈上空を昼間飛ぶ予定で楽しみにしていたのだが、飛行機が半日遅れたせいで実現しなかった。天気と時間と高度が重ならないとだめなのだ。
フィリピン上空はこの三つが全部そろった。
どうしてもみたかったのは、森林破壊の実態だったが、上からながめて愕然とした。ガリ侵食といわれる岩盤を深くえぐりとった侵食で、むきだしになった山肌。緑はほとんどない。砂漠化防止の植林活動などをしてある程度の知識があるから、痛々しい大地の意味がわかるが、なにも知らなかったら、ただの風景にしか映らないだろう。
このフィリピンの国鳥が、世界最大級のフィリピンイーグル。ミンダナオ島の熱帯雨林に生息して、鋭い爪と長いくちばしでサルも食べるといわれている猛禽だ。体長はおよそ1メートル、羽を広げると2メートルを超えるという。現在は200羽程度しか確認されていない絶滅危惧種になっている。
この鳥の保護活動がダバオ市のフィリピン・イーグル・ネイチャー・センターで行われている。ここで十年前に、人工授精の結果はじめてのヒナが誕生した。昨年の段階で二十三羽飼育しているという。
センターでは、このイーグルたちを野生に返すことを目標にしているのだが……。島の山間部ではフィリピンイーグルが家畜を襲うという問題がおきている。人びとは家畜を守るために、ワナを仕掛けたり空気銃などでイーグルを襲っている。
二十四年間保護活動をしているセンターの所長さんは、イーグルが捕まるたび引き取りにいっているが、たとえ森に返しても、また捕まってしまう可能性が高い。だから、センターで暮らしてもらうしかないといっているそうだ。
国のシンボルが、地元では害鳥になっている。イーグルの生息地である森林が破壊されれば、獲物がいなくなる。そうなれば食べ物を求めて人里を襲う。この構図は、どこの国も同じだ。空からみたフィリピンの森林破壊のすさまじい光景は、忘れられない。
この星に生けるものたち
アジア編第6回
カメ
梅雨の真っ最中、神奈川の野毛山動物園で、100匹近いカメの盗難事件があった。珍しいものばかりで、なかには絶滅危惧種のカメもいたという。最近、首都圏の動物園では相次いでカメの盗難事件がおきている。
カメといえば子どもの頃、庭にまよいこんできたリクガメとか、小さなミドリガメとか、ドリトル先生の物語にでてくるドロンコという、地球の生き証人のようなウミガメくらいしか知らない。
インドセダカガメ、インドホシガメ、ニシキガメ、アルダブラゾウガメ、ハミルトンガメ……カメの種類ってどのくらいあるのだろう。インドホシガメはインドやパキスタンにいる。アルダブラゾウガメというのはインド洋のアルダブラ島にいて、成長すると一メートルにもなるという。その島はいったいどこにあるのか、地図が浮かばない。
世界中にいるカメが、いまペットとして大ブームだそうだ。絶滅危惧種だろうがなんだろうが、インターネットでは公然と売り買いされている。マニア向けの闇市場もある。
少し前だが、不正輸入された生きた爬虫類53309匹のうち、54パーセント以上が日本で第1位。2位アメリカ、3位フランスという統計がある。日本が、野生動物などの輸入大国といわれる所以だ。
密輸業者が運び込むもの、素人が運ぶものなど、その方法はさまざまある。二年前、インドホシガメを業者が粘着テープで固定し、包装紙にくるみスーツケースにいれて持ち込もうとしていたのが発覚した。ビジネスマンがポケットやカバンにいれたり、ガムテープでズボンにはりつけて持ってきたものもみつかっている。
こうして違法に持ち込まれた珍しいカメのなかには、40万円、50万円もするし、百万円以上と高値がついているものもある。
インターネットでみてみた。どのカメも甲羅の模様は美しく、目を見張るものばかりだった。地球上にこんなにもたくさんの美しいカメが存在しているのを知らなかった。マニアは、よだれがでるほど欲しいのだろう。欲しいものは何が何でも手に入れる。そこには、モラルなどはけちらかされてしまう欲望しかない。挙句の果てに動物園にまで忍び込んで、開園中、白昼堂々(?)と泥棒する。
七月二十日、横浜のある駐車場にカメが2匹捨てられていた。ワシントン条約で規制されたカメだった。
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