環境新聞「地球タイムス」連載
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この星に生けるものたち
アジア編第10回
キンシコウ
世界には名前に「ゴ―ルデン」とついた金色のサルが4種類いる。 ジェントルキツネザル、ライオンタマリン、ラング―ル、そしてゴ―ルデンモンキ―、つまりキンシコウだ。
『西遊記』に登場する孫悟空のモデルといえば、日本人にも馴染みがある動物で、中国南部の山岳地帯に生息している。
地球上に現れたのは約150万年前らしいが、今も生きのこっているのは、四川省の「川キンシコウ」、雲南省の「テンキンシコウ」、貴州省の「黔キンシコウ」の三つの亜種にすぎない。
中国ではパンダとともに「国宝」と呼ばれ、1級保護動物に指定されている。雲南省や貴州省のキンシコウは、ほとんど絶滅に瀕しているといわれるが、四川省ではまだ1万頭はいると推定されている。
川キンシコウは、顔立ちが最も個性的で顔と唇が青く、体全体が金色の長い体毛におおわれている。大人のオスは30センチほどの大きさだ。生息地は四川、甘粛、陝西、湖北の2000から3000メートルの落葉広葉樹林、針葉樹林。これはパンダの生息地と重なっている。
食性は雑食で、春や夏にはイヨウモミノキやタカネゴヨウなどの木の若芽や若葉、新しい枝のやわらかな皮を食べ、秋には種子や液果などを食べる。
雑食といっても植物中心のようだが、どうも性格は穏やかではないみたいだ。猜疑心が強く、視覚にすぐれていて、敏捷な体と極めて強靭な跳躍力をもっている。木の上で水平方向に6〜7メ―トルも飛べるらしい。危険を察知したら、瞬く間に木から木えと雲隠れしてしまうそうだ。
三蔵法師の一番弟子としては、申し分のないない警護役にはちがいない。
キンシコウは、数家族が集まって群れをつくり移動しているが、美しい金色の毛を輝かせた野生の集団を、木の間隠れにでも見られたらと思ってしまう。北京動物園で見た姿が忘れられない。
日本の動物園にもいて、神戸市立王子動物園では、3頭を今月中に中国に返還する。この動物園は中国国外で初の繁殖に成功し、4頭が誕生したところだ。このうちの3匹はすでに里帰りしているという。今回は同園にいるすべてを返還する。野生に戻すことはできないだろうが、無事に子孫をふやして欲しい。
この星に生けるものたち
アジア編第11回
ベンガルハゲワシ
動物の死肉に群がる、ハゲワシとかハゲタカを好きだという人は、あまりみかけない。命が消えるのをどこかで待っていて、たちどころに襲いかかる姿が、とても残酷にみえるからだろう。
ワシやタカは、視細胞というものを150万個もっているという。人間は20万個というから、約8倍もの視力がある。ハゲワシは1500メートルもの高さから、地上の死骸をみつけられるらしい。
かつて、南アジアにハゲワシはたくさんいた。ところが、ここ10年で80パーセント以上の個体が激減したという。
そのなかのベンガルハゲワシやインドハゲワシについて、最近、「英科学誌ネイチャー」が、インドやパキスタンなどにいるハゲワシの大量死が相次いでいるという調査結果を発表した。原因は、動物用医薬品が体内に残留した家畜を食べたせいだという。死因のほとんどは腎臓障害で、体内にはパキスタンなどで坑炎症剤として広くつかわれているジクロフェナクという物質が蓄積していたとしている。動物用医薬品による生態系への影響が問われたのは、初めてのことで、安易な薬の大量使用に警告を発した。
実際にインド・ケオラディオガーナ国立公園を例にとってみると、1988年に観察された816羽の個体数が、2000年にはたったの1羽しかみられなかったということだ。
ネイチャーは、95パーセント激減した種もあるといっている。
インドでは、ベンガルハゲワシがいなくなって困っている人たちがいる。鳥葬の風習をもつ、パールシーと呼ばれるゾロアスター教の人たちだ。インドには約8万人いて、殆どがムンバイという町に住んでいるのだが、ハゲワシが激減したせいで死者を弔う方法に支障をきたしている。毎年1000人ほどの人が死ぬ町にとっては大変なことにちがいない。
ゾロアスター教は土葬や火葬、水葬を認めない。体が大地や火、水を汚すという理由からだ。「鳥葬によって遺体を自然に分解させるのは、環境にやさしい方法だ。火葬はオゾン層破壊する温室効果ガスが生じる」というのは、ゾロアスター教研究者コジェステ・P・ミストリー氏だが、説得力のある言葉だ。
同じ風習のある中国チベット自治区では「非文明」という理由で、火葬に変える改革に乗り出した。ハゲワシを絶滅させようとしている「文明」とは、いったい何なのだろう。
この星に生けるものたち
アジア編第12回
フタコブラクダ
ラクダに乗って1ヶ月、タクラマカン砂漠を旅したことがある。一日に30数キロ、ラクダの背にゆられながら、西へ西へと移動していったのだが、けっこう過酷な旅だった。
ラクダは神経質な生きものだから、ハンカチを落としたりすると、驚き慌てて、乗せているものを振り落としたりする。家畜として生きていたものを人間が乗れるように慣らしてもらったわけだが、私たちにとっても馴染みのない動物だから、、
お互いが仲良くなれるには、話しかけたり歌をうたってあげたり、コミュニケーションが必要だった。そうして心が通じ合うようになると、ラクダの背から見える砂漠の風景を眺めるゆとりがでてくる。
テムジンと名づけたこのラクダが、モンゴルなどの中央アジアに生息するフタコブラクダだ。体長は300センチ、体重は450〜1000キログラムもある。
砂漠で暮らす人々は、ラクダを「砂漠の舟」と呼ぶが、紀元前1800年くらいから家畜として飼っていたらしい。何日も水を飲まなくてもいいように、脂肪がつまった背中のこぶのことはよく知られているが、砂漠の砂が体に入るのを防ぐため、まつげがとても長く、鼻の穴だって自由に閉じたりできる。
モンゴルでの野生のフタコブラクダは、1985年以来の減少が45パーセントで、このままだったら2033年には84パーセントも減少してしまうそうだ。
もともと野生のフタコブラクダは、レッドリストの初めから絶滅危惧種には指定されていたが、国際自然保護連盟は、危険度のランクを「絶滅寸前種」にあげた。環境悪化や密猟など人為的な行動によって、個体数がどんどん減少しているからだ。現在、野生のフタコブラクダは、世界中でわずかに800頭。そのうちの半数が中国新疆自治区のタクラマカン砂漠にあるロプノールにいるという。
2001年、そのタクラマカン砂漠で、中国とイギリスの合同調査隊が、新種らしいフタコブラクダを確認したということだ。この野生のラクダは膝に毛が生えていて、砂漠から湧き出す塩水を飲んでいるという。
かつて「空に飛鳥なく、地に走獣なし。屍をもって道標となす」と恐れられたタクラマカン砂漠のど真ん中に、石油コンビナートができている。砂漠を縦断する道路もできた。
ラクダに乗って砂漠を旅してみたらいい。価値観さえ変わるほどの、何かがみえてくるはずだから。
この星に生けるものたち
アジア編第13回
ノグチゲラ
沖縄本島北部の、やんばるという山岳地帯にいるノグチゲラは、地元ではキータタチャーと呼ばれる、キツツキの仲間。 この鳥が発見されたのは1886年で、発見者の名前にちなんでノグチゲラと名付けられたが、世界のどのキツツキとも区別される沖縄本島の固有種だ。1970年に沖縄県の県鳥に、1977年には国の天然記念物に指定されている。
昨年の末、アメリカの環境保護団体「米生物多様性センター」(CBD)は、米内務長官らを相手に、この鳥をアメリカの種の保存法が定める「絶滅危惧種」に指定するよう、ワシントン連邦地裁に提訴した。
ノグチゲラが生息する地域には、亜熱帯の森林が広がるが、同時にその一部は米軍北部訓練場となっている。この地域では軍事演習はもちろん、今、ヘリパッドなどの施設建設計画がもちあがっている。
それでなくても、森林の伐採や林道などの開発が進み、ノグチゲラだけでなくヤンバルクイナやケナガネズミなどの希少動物が激減している地域なのだ。
ノグチゲラは、体長約30センチ、全身は黒褐色で翼は黒に小さな白い斑点がある。背や腹は赤みがかっているが、目立たない鳥だ。生活範囲は森の中だが、近年は森に近い集落の建物の窓ガラスに衝突したり、伐採地上空で飛行していてカラスに襲われるなどの事故が増加しているという。
本来の生息地が荒らされて、人間の生活域まで出て来ざるを得なくなっている環境から起こる事件だ。
このノグチゲラの数は、たった90羽くらいだと推測されている。
米生物多様性センターの訴状によると、1980年にはイギリスに本部がある国際鳥類保護会議がノグチゲラを世界的な希少種としたうえで、アメリカの種の保護法による絶滅危惧種に申請したという。これに対してアメリカ政府は「保護は必要だが、指定は今後検討」としたが、それを怠っていたとして指定を迫ったのだ。 やんばるの森を訪ねたとき、ノグチゲラがつついて落とす木クズを真下で見た。空を飛ぶ姿も数秒間だが見たことがある。
開発をやめられない人間たちの欲望の前に、90羽のノグチゲラたちは、どうすればいいのだろうか。保護するといっても、かかえている問題はあまりにも大きすぎる。「第2のトキ」と同じ運命を辿らせてはならない。
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