エッセイの部屋


環境新聞「地球タイムス」連載

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この星に生けるものたち
               南アメリカ編1回 
     ジャガー

ブラジルに本拠地を置く非営利環境グループRENCTAS(ポルトガル語で野生動物の売買と戦うネットワークの意味)が2001年に発表した報告書によれば、世界的な野生動物の密輸は、年間150億ドル産業にまで膨れ上がっているという。
なかでもトップで37パーセントを占めているのがブラジルだ。おおよそ3800万の生きものが持ち去られているが、そのほとんどはアマゾンからだという。
 しかもブラジル政府は、動物の取り引きを禁止する法律があるにもかかわらず、積極的に取り締りをしない。それどころか密輸を取り締まろうとした環境監視官が殺されるという事件がおきている。
 食物連鎖の頂点に立つジャガーが多く生息しているのは、アマゾン川流域と世界最大の淡水湿地帯であるパンタナルだといわれている。
 ネコ科の動物でいちばん大きいのはライオン、ついでトラ、3番目がジャガーだ。ジャガーとそっくりの動物はヒョウだが、両者はなかなか区別しにくい。見分けのポイントはまず大きさ。ジャガ―はヒョウの1・5〜2倍の体重で体つきもがっしりしている。
だが、最も重要なポイントは黒い斑点で、ヒョウにくらべて大きく、数が少ない。しかも斑点は輪っかになっていて、輪の中には小さな点点が1〜4個ある。この二つの生きものを同時にみたときの見分け方は、輪っかの大きさと輪の中に点があるかどうかだ。
 8種類の亜種が知られているジャガーの生息分布は、北米南部から南米までと幅広いが、現在すべての亜種が絶滅危惧種に指定されている。全体の生息数も不明で、北アメリカではほとんど見かけなくなってしまったということだ。
 人はかつてこの生きものを神として崇拝していた。アマゾンのある部族は、ジャガーは闇の世界の神で毛皮の模様は星と天国を表わし、日食はジャガーが太陽をのみこんでしまうから起こるのだと信じていた。
 人に恐れられ崇められ、食物連鎖の頂点に君臨してきたジャガーも、密猟や森林開発、家畜を殺す害獣として、滅ばされてきた。こうして殺されたジャガーの毛皮は、20000ドルもの高値で人間に買われていくという


 この星に生けるものたち
               南アメリカ編2回

      ライオンタマリン

 金色のサル「キンシコウ」のときにふれたライオンタマリンは、世界中でブラジルにしかいないサルだ。
 体長25〜40センチ、体重500〜800グラムほどの小さな霊長類で、黄金色の光沢をもった絹のような毛に覆われ、頭から肩にかけて、ライオンのたてがみをを思わせるような長い毛がある。
 ライオンタマリンの名で呼ばれるサルは、ゴールデンライオンタマリン、キンゴシライオンタマリン、キンクロライオンタマリン、クロガシラライオンタマリンの4種がいる。
 4種とも絶滅が心配されているが、キングロライオンタマリン以外の3種は、世界で最も絶滅のおそれが高い動物のひとつだ。野生のキンゴシラライオンタマリンは、一時50〜100頭にまで減ってしまったといわれる。
 ライオンタマリンは、3〜7頭くらいの群れをつくって樹上で暮らしている。食べ物は昆虫や鳥の卵に種子、カエルやトカゲなどの小動物や果物などの雑食で、子どもが生まれて3週間くらいたつと、父親が子どもを運ぶ役目をうけもち、授乳のときのみ母親のもとにもどる。夫婦で仲良く子育てをするという一夫一婦型の家族形態だ。
 このライオンタマリンが生息するのが、ブラジルの大西洋岸に沿った、南北3000キロにも広がる熱帯雨林。この森はアマゾンの森とは別個に発達したもので、固有の珍しい生きものたちがたくさん暮らしている。
 その広大な森の破壊が激しくなったのが、1920年代だという。木材の輸出のための伐採や、コーヒー農園の開発が原因だった。その後は牧畜も盛んになり、多くの森が牧草地に変えられ、面積はかつての5パーセントになってしまった。
 州政府は、森林保護区をつくったが破壊はとまらず、さらに1980年代になると、各地でダムがつくられ、そのせいで保護区に洪水が起きるという問題がおこった。
 現在、州政府やNGOの保護活動によって、分断された森と森を行き来できるよう、丸太の橋をかけたり、ネコ科の動物やヘビに襲われないよう巣箱が据え付けられたりしている。また、動物園で増えたライオンタマリンを野生に帰したり、狭くなった森から移住させたり、さまざまな方策も試みられている。
 そんな活動の結果、キンゴシライオンタマリンの数は、推定で1000頭まで回復したとされている。野生にもどされたものたちも、順調に繁殖をしているという報告もある。
 ライオンタマリンが絶滅危惧種からはずされることが、近い将来あるかもしれない。



この星に生けるものたち
            南アメリカ編3回
    チンチラ

 ペットショップにいくとウサギそっくりな愛くるしい生きものがいる。それがチンチラなのだが、モルモットやヌートリアなどと近縁で、げっ歯目・チンチラ科・チンチラ属という学名をもっている。
 種としてはオナガとタンビに分かれるが、ペットとして出回っているのはオナガ種で、人工繁殖で量産されている。タンビ種は絶滅したと思われていたが、2001年に生息が確認されたそうだ。
 チンチラの故郷は南アメリカのぺルー、ボリビア、チリ、アルゼンチンにまたがるアンデス山脈。標高3000〜5000メートルの寒冷な高地に分布している。生息地の年間平均気温は2℃。
 岩場の多い荒れた地に集団で社会生活を送っている。チンチラは夜行性の生きもので、日中は岩の割れ目で休み、夜になると岩と岩の間を跳ねて移動し、餌を探す。
 野生のチンチラの食べ物は、樹皮や皮、枯れ草やサボテンなどで、栄養価の低い食べ物だ。
 チンチラはひとつの毛穴から50〜100本の細い毛が生えている。この厚くて美しい毛皮を衣類や寝具として使っていたのが、アンデスの高地に住むインディオの人々だった。保温効果の高い毛皮は、防寒着として最高なのだ。インカ帝国のシンボルマークとしても使われていたという。
 ところが16世紀、南アメリカはスペイン人によって制圧されてしまい、そのことが、チンチラの運命を大きく変えることになった。
 チンチラの美しい毛皮に目をつけた人たちが、ヨーロッパに持ち帰ったのだ。
 ヨーロッパ人たちは、高価なチンチラの毛皮のコートを作るために乱獲を続け、20世紀初めには一時的に絶滅に追いやられてしまった。その後、野生のチンチラはワシントン条約によって国際間の取り引きは禁止されている。
 そのチンチラが、日本にペットとして登場したのは、30数年前。
 ペットとしての最初の飼育者は、1918年にチリで鉱山技師をしていたM・チャップリンという人だった。インディオから1頭のチンチラを譲り受けたチャップリンは、たちまちチンチラに魅了され、数年がかりで集めた11頭のチンチラをアメリカ合衆国に持ち帰った。その後、毛皮用の繁殖に成功し、世界各地に輸出されるようになったという。
 現在、野生のチンチラは、チリ山地の保護区にわずか数千匹が生きているだけだ。





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