エッセイの部屋


環境新聞「地球タイムス」連載

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この星に生けるものたち
               南アメリカ編4回 
     カワウソ

イタチ科の水生動物カワウソは、昔から人間に愛されていたらしく、民話などにもよく登場する。
かつて採訪をした地域で、カワウソはお坊さんに化けるのが上手という話を聞いたことがある。二本足で立ちあがった姿かたちからして、いかにもうなずける話だった。
 そのニホンカワウソは、100年程前は東京でもみられたというが、いまでは10〜20頭くらいしかいないと推定されている。
カワウソの生息地は世界中に広がっているが、その多くが絶滅の危機に瀕している。  毛皮を狙ったハンティング、殺虫剤や農薬の使用で餌となる魚の汚染、河川の開発など、さまざまな原因があげられるが、どれも人間の側がつくった原因だ。  南アメリカには世界でもっとも大きいといわれるオオカワウソやチリカワウソ、オナガカワウソなどがいる。
 なかでもブラジルのパンタナルという世界最大級の淡水湿地帯には、オオカワウソとオナガカワウソが共存している。  すべてを水が支配するパンタナルは、日本の本州ほどもある面積で、雨季には70パーセントが水に沈む。パンタナル自然保護区は「世界遺産」の指定になっている。 ポルトガル語で「大湿原」を意味するパンタナル。規模や生息する動物の多様さからアマゾンに匹敵するということだ。
3500種の植物、102種の哺乳動物、682種の鳥類、177種の爬虫類、40種の両生類、264種の魚類と、野生の生きものたちがあふれているが、生態や個体数はあまり知られていないという。 この野生の生きものたちの聖地に変化がおきているという。野放しのスポーツフィッシング、ペット売買のブラックマーケット、農業排水と金採掘による汚染物質など、環境の悪化が進んでいる。
密猟者に親を殺されたオオカワウソの赤ちゃんが、レンジャーに保護されたとき、人間を親と思い込んでついて歩く姿が、昨年テレビで放映された。
チリカワウソも、かつてはアルゼンチンとチリに広く分布していたが、いまは孤立した7箇所の狭い地域だけに生存している。     カワウソが敵から姿を隠すためには、植物が密生した川岸、露出した木の根などが必要なのだ。河川生息地の悪化は、世界のカワウソをますます追いつめている。


 この星に生けるものたち
               南アメリカ編5回

      オオアリクイ

 昨年のこと。横浜市にある「よこはま動物園ズーラシア」でオオアリクイの赤ちゃんが生まれた。
 オオアリクイは中・南米のサバンナや熱帯雨林に生息する生きものだ。寿命は14〜15歳だというが、この赤ちゃんの母親は、日本にいるアリクイのなかで最高齢の推定26歳。人間でいえば80歳をすぎてからの出産ということになる。母親は「ウメ」という名前だが、南米生まれで推定3歳のときに日本にきた。8歳のときに国内初の出産に成功している。22歳のときにも出産しているというから、自ら最高齢の出産記録を更新したことになる。
 オオアリクイは体長2メートルにもなるが、そのうち尾が1メートル。ユニークなのは60センチもある舌だ。細長く小さい口から、1分間に160回も舌を出し入れして獲物を捕らえるというのだ。
 今年になってからだが、テレビのドキュメンタリー番組でブラジル・エマス国立公園を舞台にした「光るアリ塚」を放映していた。広大な草原に無数に立ち並ぶ、高さ2メートル、直径1メートルもある土のアリ塚が、日が沈むと漆黒の闇にまるでクリスマスツリーのように輝く。ここの住人がシロアリで、オオアリクイはシロアリが大好物なのだ。  オオアリクイは、実に奇妙な生きものだと思う。一度みたら忘れられない細長い顔で歯がない。前足についている10センチもある3本のカギ爪は、ジャガーなど天敵に遭遇して追いつめられたときに、抱きついてグサリとひっかく武器になっている。この爪で巨大なアリ塚に穴をあけるのだが、面白いのはそのアリたちと共存していることだ。  決して一つのアリ塚を食べ尽くすことはなく、ある程度食べると次に移動し、こうして満腹になるまで次々にアリ塚を訪れ、餌場を管理しているというのだ。
巣を壊されたアリたちは、ただちに働きアリが復旧作業を開始し、夜が明けるころにはすっかり修復されている。
 オオアリクイとシロアリとの共存が、人間の入りこまない草原の闇夜、幻想的な光景の下で繰り広げられていると思うと、なんだかうれしくなる。  アリクイの生息数は情報不足ではっきりしないらしいが、激減しているという。



この星に生けるものたち
            南アメリカ編6回
   アマゾンマナティ

 沖縄・南西諸島の海域に生息しているジュゴンが、生存の危機にさらされている。
ニュースを聞くたびに人間の有り様を自ら問いかけているが、ジュゴンの仲間にマナティがいる。マナティもジュゴンも海牛類の哺乳動物で、太平洋にはジュゴンが、大西洋と大西洋に注ぐ大河川の流域にはマナティが棲んでいる。
 かつてアリューシャン列島には全長9メートル、体重6トンもある巨大なステラカイギューがいたというが、乱獲によって18世紀には絶滅してしまったという。マナティの平均体長3メートル、体重700キロに比べたら、とんでもない大きさだ。
 だがステラカイギューは、発見されてからたった27年で、絶滅してしまった。おいしいとされる肉や油、皮をとるためにハンターたちが押しかけ皆殺しにしてしまったのだ。
 この星から消えてしまった生きものは、どうすることもできないが、ジュゴンやマナティは、まだ生きている。
 アフリカマナティ、アメリカマナティ、アマゾンマナティの3種がいるマナティ。いずれも国際自然連合によって、絶滅危惧種に指定されているが、アマゾンマナティは、2002年にドイツのボンで開催された「移動性野生動物種の保全に関する条約・第7回締約国際会議」で保護対象とすることが決められた。  海水でしか生きられないジュゴンと違って、淡水でも暮らせるマナティに天敵はいないという。唯一いるとすれば、それは人間だ。
 泳ぐことがそんなにうまくないから、息継ぎのために水面近くで過ごすことが多い。そのためにモーターボートなどとの衝突事故が多いらしい。船のスクリューにまきこまれたりなどして傷を負うと、太っている割には脂肪がそんなに多くないものだから、傷が内臓まで達してしまう。傷を負ったマナティがあまりにもたくさんいるために、個体識別の手がかりとして研究者たちは、傷跡を利用するという話もある。
また港湾の建設や水門設置、捨てられた網や釣り針、水質の汚れなど、私たちはマナティの暮らしをおびやかしつづけている。
 ジュゴンもマナティもやさしい風貌をしている。だから、昔の人間たちは、人の形を連想して人魚と呼んだのだろう。同じ価値だと認める思想があったから。





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